リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「できないだろ。原田には無理だよ。できるわけがないよ。ホントにできるって言うなら、まずはちゃんとやってみせろよ、一人で。昨日から、ずっと、小杉主任をただ困らせてるだけで、仕事なんてなに一つ、していないじゃないか」

沼田にしては珍しく、ややぶっきらぼうで乱雑な口調で、そう一気にまくしたてた。
そんな物言いをする沼田に、幸恵は目を見開いて固まっていた。
驚愕の表情だった。
明子も、内心ではやや驚きながら、沼田を眺めた。
いくぶん緊張していることが、強張っているその頬から伝わってきた。
けれど、明子はそのまま沼田の様子を静かに見守り続けた。
一週間前の沼田だったなら、迷わず加勢した。
でも、今の彼ならばそんなことは必要ないはずだと明子は信じた。

「どれか一つでも、できあがったものがあるのか? 僕にも野木さんにも、原田に一から十まで仕事を教えている時間は、ないよ。仕事をやる気がないなら、チームから抜けてほしい。ホント、邪魔だから」

驚く幸恵をよそに、沼田は胸の内に溜まっていたらしい思いを一気に吐き出した。
つかの間、幸恵はそんな沼田を見つめ、やがて、震え交じりの声で喋り出した。

「沼田さん、どうしちゃったんですか? 前はそんなこと、言ったりしなかったのに。小杉さんと仕事してから、ヘンです」

沼田さんらしくありませんと、幸恵は泣き出しそうな顔で沼田を見ていた。

「どういうのが僕らしいの。原田たちに、沼っちなんて呼ばれて笑われてた僕が、僕らしいの?」

告げられた沼田の言葉に、幸恵は驚きの色をその顔に浮かべ、香里はすぐさま小杉に睨み付け喚いた。

「あんたが言ったんでしょっ ひどいっ 女の子同士の内緒話、どうして言いふらすのよっ」
「あなたたちの内緒話、私がどこで聞いたのよ?」

言いがかりにしてもほどがあるでしょうという明子の呆れた声に「そんなの、ロッカールームに決まっているでしょっ」と、香里は負けじと言い返した。
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