リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小杉主任のこと、仕事しかできないって言ったけど、それのどこが悪いんだ? いいじゃないか、仕事ができる人って。原田たちさ、よく小杉主任のことを仕事しかできない人って言って見下すけど、僕にはその感覚が判らない。女の人が仕事をがんばっていることが、そんなにおかしい?」

さっぱり判らないと首を傾げ続ける沼田に、幸恵は目に涙を浮かばせて、その目で明子を睨みつれた。

「サイテー。いろんな人にちょっかい出して。牧野課長も、沼田さんも、調子いいことばっかり言って騙してるんでしょ。みんなの邪魔ばっかりして。島野さんと遊んでるなら、島野さんとだけ遊んでてよ。私たちの邪魔しないでよ」
「いや、島野係長とはメル友だし」

遊んでないからと否定する明子に、沼田は笑いながら「でも、島野係長と結婚したら玉の輿ですよ」と告げた。

「そうなの?」
「島野係長って、働かなくても食べてはいける人なんだそうですよ。だから、昔は悪さをいっぱいしていたんだって。前に、課長と三人で飲んでいたときに、そんなことを言ってました。会社をクビになっても困らないから、どうでもいいやって。課長にきついお灸を据えられて性根を入れ替えたから、まじめに働くようになったんだって。課長がいなかったら、今ごろ無職でフラフラ遊んでいる、ダメ人間だったろうなあって」
「あー。それ、聞いたことあります。僕も」

なんか、マンションの収入がどうのこうのって。
沼田の言葉に、そうだそうだと思い出したというように木村も頷き、明子はそうなんだと、ただ感心するだけだった。
香里がくるりと踵を返して、持ってきた弁当を全部、抱えだした。

「もう、いいわ。沼っちは幸恵ちゃんに譲るわ。じゃあね」

あっさりと、幸恵にそう告げて、そのまま一度も振り返ることなく、香里は会議室から出て行った。
幸恵はそんな香里と沼田を交互に見て、どうしようかと迷った挙句、香里の後を追うように会議室を出て行った。
この場に自分一人では、あまりにも分が悪い。
そんな言葉が、逃げるように出て行った幸恵の顔に浮かんでいた。
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