リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「もし、知らないっていうなら、そんなのは原田さんの勉強不足じゃないですか。俺ですら知っていることを、俺より先輩の原田さんが知らないなんて、普通、思いませんよ。今まで何してたんだって話じゃないですか。自分の勉強不足を棚上げして、そうやってなんでもかんでも小杉主任のせいにしているのは、どうかと思いますけど」
「すげえな。渡辺。先輩にそんな意見をするんだ」

坂下が茶化すような口調で渡辺にそう言うと、ホントよねえと香里たちが囁きあった。
渡辺は、そんな坂下たちに聞かせるように息を吐いて、坂下に言葉を返した。

「だったら、坂下さんが、原田さんを注意してくれませんか?」

反論など予期していなかったのか、坂下はなにも言い返せず、顔をひきつらせた。

「同じ課の、とっても仲のいい後輩じゃないですか。ただ、判らない判らない、教えてくれないって。入社して三年にもなるっていうのに、なにもできなくて。一日中、こうやって喚き続けているんですよ。みっともないと思いませんか。ちゃんと先輩らしく、注意してくださいよ」

なんで俺がそんなことをしなきゃいけなんだよと、坂下は渡辺の言葉に鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「そんなこと、野木主任に言えよ。俺は今、誰かさんが余計のことしてくれたせいで、別の階で作業中だから、原田の様子なんて知らないしな」

吐き捨てるようにそういう坂下に、野木はせせら笑いに似た笑みを浮かべた言い返した。

「俺が言っても聞かないよ。俺にもああやって、判らない、教えてくださいって言うだけなんだから」
「なら、俺が言ったって無駄だろ」
「そうだな。だったら、あいつのことには、余計な口出ししないで、自分の仕事をしていろよ。口出しするなら、あいつの面倒はお前がみろ。小杉主任だって、そのほうが仕事に専念できるんだからな」

ぴしゃりとした野木の口調に、坂下は仕方なさそうに黙り込んだ。
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