リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「それからな、社内システムの件を、粗探しだのなんだとのと言って、小杉主任のことをずいぶんと非難しているみたいだけどな、そんなことを言えば言うほど、お前らが、社内で笑い者になるだけだぞ。今、社内で自分がどんな立場になってるか、判ってるのか、お前」

同期のヤツらすら、もう、お前とは関わりたくないって、避けているじゃないか。
野木に浴びせられた最後のその一言に、坂下は腹立ち紛れに、机をドンと蹴飛ばした。
明子は、思わず、肩を竦めて頬をぴくりと引きつらせた。
その派手な物音に、一瞬、室内は静まり返り、その沈黙に坂下は気まずくなったのか、軽い咳払いをして、そのあとは静かになった。
岡島の机にある固定電話の呼び出し音に、ようやく、室内は日常の空気に戻り、皆、それぞれの作業を再開しろ。
明子は背後に立つ幸恵を見上げながら、途中になっていた話しの続きを始めていく。

「ウチで開発したシステムは、規約でこういう作り方はしないことになっているけど、こちらのシステムは入力規則プロパティでも、いろいろチェックしているから気をつけてね」

援軍になってくれると思っていた坂下のその沈黙に、不満げな顔をしている幸恵を見ながら、明子は萎えかけている気力を振り絞るようにして、穏やかな声でそう告げた。


(野木主任の言葉は、原田さんのことでもあるのにな)
(判ってないんだよね、きっと)
(ねえ。寿退社なんて言っている場合じゃないんだよ?)


明子のそんな心中など知ることもなく、また目を吊り上げた幸恵は明子の言葉に反発するだけだった。
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