リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「原田。小杉主任の代わりにって、そうやってしゃしゃり出でくるのはいいけどさ、出てくるなら出てくるなりに、しっかりやってくれよ。終わりませんでしたじゃ、すまないからな」

野木の言葉など聞きたいないというように、耳に手をあて塞ぐ幸恵に沼田が静かな声で呼びかけた。

「原田」

幸恵はその顔を瞬く間に輝かせて、沼田を見る。助け舟を期待しているような、そんな表情だった。

「みんなと相談して、仕事を遅らせて、その責任を小杉主任に取らせようっていう魂胆だったんだろうけど、そんなこと、無駄だって判っただろう。それは、もう、原田の仕事なんだよ。原田が責任もってやらなきゃならない、原田の仕事なんだよ。予定通りに終らなかったら、叱られるのは原田だよ」
「だって。私、小杉主任の手伝いのつもりでいたし」

幸恵は期待を裏切られたという表情で、落ち込んだ様子を見せながら、それでも沼田の同情を引こうとするかのように必至に食い下がった。
けれど、沼田はそんな幸恵の思惑には嵌らなかった。

「昨日、小杉主任なんか必要ないって、自分がやるってそう言っただろ。覚えてないの?」
「でも、普通、こういうときは、小杉さんが仕切ってやってくれるって思うじゃないですか」
「それは、原田の思い込みだし、甘えだろ。そうじゃないって判ったんだから、さっさと仕事を始めたほうがいいと思うよ。どんどん遅れるよ。予定では、もう四本分くらいは、設計書ができていなきゃダメだろう」

淡々とした沼田のその口調に、幸恵は顔をくしゃりと歪ませて、仕方なさそうにパソコンに向かい始めた。


(やる気に、なってくれたかな?)
(くれたらいいな)
(というか、なって)


いっそ、催眠術でも習って、そんな暗示をかけてやりたい気分だわと、そんなことを考えている自分に笑い出しそうになるのを明子は堪えた。
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