リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
問題児集団がいなくなり、皆がそれぞれ、自分の仕事に集中している室内には、静かな活気があった。
時刻はすでに、あと一時間ほどで終業時刻を迎えるころになっていた。
明子にやりこめられてから、ずっと不在にしていた坂下と新藤が、その時間になってようやく姿を見せた。
また、室内に微妙な空気が漂い始めたが、二人が戻ったそのタイミングを見計らったように、笹原からの内線電話が入り、呼び出された二人は慌てて階上へと向かった。
三十分くらい前にも、電話あったんだからなと野木に言われて、なんで呼びにきてくれないのかと詰りながら、二人は部屋を飛び出していった。
入れ違うように、客先に出向いていた小林と村田が戻ってきた。
村田の手には、豆腐屋から貰ってきたというおからで作られたドーナツが、詰め込まれた袋があった。
ここ数年の健康食ブームの影響からなのか、最近、スーパーマーケットでもよく見かける商品だった。
「小杉さん。おからは食べますか?」
「卯の花にしたりするけど」
「これ、どうぞって渡されちゃって。よかったら、持っててください」
「ありがとう。えー。これ全部、貰っちゃっていいの?」
「欲しい人、いるかあ?」
村田はそう言って周りをキョロキョロと見るが、皆一様に首を横に振るだけだった。
「係長は?」
「俺も貰った」
「じゃあ、ありがたく頂戴します」
おそらく、三〇〇グラムくらいはあると思われるおからに、明子は顔を綻ばせ喜んだ。
幸恵は、美咲たちが部屋を出て行ったあと、しばらくは真剣の面もちでパソコンに向かっていたが、それでも、戻ってこない美咲たちが気になってしまうのだろう。
一度、席を離れてしまってからは、たびたび、席を空けるようになってしまった。
「ダメだな、あいつ。あれだけ言われても、判らないんだから、救いようがねえよ」
誰にともなくの野木のそんなぼやきが聞こえ、室内に重苦しいため息が溢れた。
小林がちらりと明子に目を向けたが、なにも言ってくることはなかった。
やはり、ダメだったかと、明子もそれには落胆するしかなかった。
(どうすれば、いいのかなあ)
(もう、お手上げですよ、牧野さん)
(小杉も、もう限界かも、です)
朝から不在の牧野に、明子は心の中でそう呼びかけた。
まだ幸恵を預かって一日と半分だが、彼女と向き合っていく気力すら、すでに明子の中から尽き果てようとしていた。
(君島さんは、やっぱり、スゴいなあ)
幸恵だけではない。
君島はシステム部内で問題児のレッテルを貼られてしまった社員を何人も預かり、そんな彼らと何ヶ月、何年と向き合い続けてきたのだ。
明子の君島に対する尊敬の念はいっそう強くなったが、同時に、至らない自分への情けなさを募らせた。
時刻はすでに、あと一時間ほどで終業時刻を迎えるころになっていた。
明子にやりこめられてから、ずっと不在にしていた坂下と新藤が、その時間になってようやく姿を見せた。
また、室内に微妙な空気が漂い始めたが、二人が戻ったそのタイミングを見計らったように、笹原からの内線電話が入り、呼び出された二人は慌てて階上へと向かった。
三十分くらい前にも、電話あったんだからなと野木に言われて、なんで呼びにきてくれないのかと詰りながら、二人は部屋を飛び出していった。
入れ違うように、客先に出向いていた小林と村田が戻ってきた。
村田の手には、豆腐屋から貰ってきたというおからで作られたドーナツが、詰め込まれた袋があった。
ここ数年の健康食ブームの影響からなのか、最近、スーパーマーケットでもよく見かける商品だった。
「小杉さん。おからは食べますか?」
「卯の花にしたりするけど」
「これ、どうぞって渡されちゃって。よかったら、持っててください」
「ありがとう。えー。これ全部、貰っちゃっていいの?」
「欲しい人、いるかあ?」
村田はそう言って周りをキョロキョロと見るが、皆一様に首を横に振るだけだった。
「係長は?」
「俺も貰った」
「じゃあ、ありがたく頂戴します」
おそらく、三〇〇グラムくらいはあると思われるおからに、明子は顔を綻ばせ喜んだ。
幸恵は、美咲たちが部屋を出て行ったあと、しばらくは真剣の面もちでパソコンに向かっていたが、それでも、戻ってこない美咲たちが気になってしまうのだろう。
一度、席を離れてしまってからは、たびたび、席を空けるようになってしまった。
「ダメだな、あいつ。あれだけ言われても、判らないんだから、救いようがねえよ」
誰にともなくの野木のそんなぼやきが聞こえ、室内に重苦しいため息が溢れた。
小林がちらりと明子に目を向けたが、なにも言ってくることはなかった。
やはり、ダメだったかと、明子もそれには落胆するしかなかった。
(どうすれば、いいのかなあ)
(もう、お手上げですよ、牧野さん)
(小杉も、もう限界かも、です)
朝から不在の牧野に、明子は心の中でそう呼びかけた。
まだ幸恵を預かって一日と半分だが、彼女と向き合っていく気力すら、すでに明子の中から尽き果てようとしていた。
(君島さんは、やっぱり、スゴいなあ)
幸恵だけではない。
君島はシステム部内で問題児のレッテルを貼られてしまった社員を何人も預かり、そんな彼らと何ヶ月、何年と向き合い続けてきたのだ。
明子の君島に対する尊敬の念はいっそう強くなったが、同時に、至らない自分への情けなさを募らせた。