リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「戻れるようなら戻るそうですが、遅くまで、向こうで作業になるかもしれないようなことを言ってました」
「そっか。昨日も、一緒に帰ったんだろ」

突然、あっさりと予告もなく投下された爆弾に、真っ先に明子が撃沈され、動けなくなった。

「ウソよっ そんなこと、ウソッ」

悲鳴にも似た高くするどいその声が、耳に痛かった。
キリキリキリキリと始まった、静まっていたはずの鳩尾あたりの鈍痛に、明子は顔をしかめた。
その声が、突き刺さったかのようだった。
川田や村田までもが、目を丸くさせながら明子を見ているのが判った。
きっと木村も、今の小林の発言にその目をクリクリさせているに違いない。


(なんで?)
(なんで、今、ここで、わざわざそんなことを言うのかな)
(もう、勘弁して)


茶化すにしても、このタイミングはないだろうと、明子は眉をきりりと吊り上げて小林を見た。
悪態の三つや四つは、ずけずけと吐いてやらないことには気が収まらなかった。
けれど、小林のその顔は至って真面目で、冷やかし半分でその話しを持ち出したという雰囲気ではなかった。
誤魔化さずに答えろと、そう言っているようだった。

美咲の作り話に対する懸念を小林に話したのは自分だと、明子は今朝のことを思い出した。
小林も、まずいかもなという表情でそれを聞いていた。

ほんのつかの間、小林の顔を凝視して、明子は心を決めるように大きく息を吸い込むと「ええ、送ってもらいました」と、至って普通の声で返事を返した。

「ちょうど、帰り支度を始めたところで戻ってきたんで、一緒に帰りましたよ」

不思議なことに、淡々と、さらさらと、流れるように出てきた自分の言葉で、心が定まった。
心から、迷いも揺らぎも消えた。
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