リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「嘘つきはそっちだろ。土曜は、牧野課長とドライブデートをしてくるなんて母親に言って、家を出てきたらしいな。そういう嘘はな、もうやめろって。弁当を持ってきたときに見ただろう。牧野課長と小杉が、ここで仕事をしているところを」
「そ、それから一緒に、ドライブに」
「あのな。二人とも、夜までここで仕事をしていたんだぞ。土曜に出社していた社員みんな、その姿を見ているのに、なんでそんな嘘つくんだか」

救いようがないなと言わんばかりの小林の言葉を聞いて、明子も額に手を当てるようにして顔を伏せた。


(やっぱり)
(他にもいろいろ、ウソを言っていたのね)
(で、ママはそれを全部、まるまるっと信じていたと)
(いやいや、今も信じている、かな?)
(まあ、どちらにしても、頭がイタい話しだわね)
(これも、あれかしら)
(女の子同士の楽しい内緒話ってやつの、延長版?)


小林の言葉を聞いて「なんだ、それ?」と呆れている渡辺の声に「こえー」と小声で言葉を続けた岡島も、首を振って呆れていた。

「ウ。ウソじゃないわ。そのあと」
「そのあとは、小杉と一緒に、馴染みの店で飯を食っていたとよ。だろ?」

小林の確認され、明子はこくんと頷いた。
あの状況を、食事をしていたというには少しばかり心苦しいところだけど、店に行ったのは事実だからと、とりあえず明子は真面目の顔で頷いた。

「ウソツキッ そんなはずないわっ 土曜は夜から、牧野さんは私と一緒にいたのよっ」

小林の言葉など聞いてもいない様子で、ウソツキッ、ウソツキッと、美咲は明子を詰り続けていた。そうしていれば、自分の嘘がいずれ真実になると、そう信じているかのように明子を責め立て続ける。
そんな美咲に小林は鼻を鳴らして「バカ女がっ」と、美咲を口汚く罵った。

「いい加減にしろよ、お前。子どものころから、家族ぐるみで馴染みになっている店だから、嘘だと思うなら店主に聞いてくれと、牧野課長は取締役には答えたそうだ」

小林の最後の言葉に、延々と明子を詰り続けていた美咲の声が止んだ。

「え?」

美咲の顔から、全ての表情が消えた。まるで夢から覚めたような、そんな表情になった。
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