リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】

2.時間が変えてくれたもの

さすがに買いすぎたかなと、明子はスーパーマーケットで買い込んできた大量の荷物に、ぐったりとなりながら玄関を開けると、電気をつけて、とりあえず買ってきたものは袋ごと流し台に置いた。
そのままリビングに入った明子は、全開になっているカーテンを引くと、えいっと言うかけ声とともにソファーに雪崩れ込んだ。
久々の満身創痍感だわと、明子はソファーに埋もれるように身を沈めた。
いっそ、このまま寝てしまおうかなどと考えが、頭の片隅に浮かんだけど却下した。


(お風呂、入りたいし)
(夕飯も、まだ食べてないし)


ちゃんと食べていないから、よけいに疲れるのかもしれないと、明子はエネルギー不足を痛感した。


(なんだろなあ)
(ストレス、だけじゃないような気がする)
(というかね、あたし)
(ストレス溜まると、食べるもの)
(がっつり、これでもかってくらい、食べるもの)
(その結果が、このプクプクのお腹だもん)


空腹感がないわけではないのだけれど、食べ物を前にしても、食べたいという意欲がまったく沸いてこない。
なにか別なものを体が欲しているような気もするのだけど、いったいなにを欲しているのかが、明子にも判らなかった。
こんな症状は初めてかもしれないと、さすがの明子も少しだけ不安になった。


(ホントに、なんだろね)
(なんか、つわりみたいな感じじゃない?)
(いやいや、妊娠してないし)
(するわけないし)
(もし、していたら怖いし)
(どこに消えたの?)
(食欲ちゃん)


そんなことをウダウダと考えている明子の足元で、携帯電話が振動している音がした。
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