リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「はあ? 三宅がいなかったら、伊東さんと結婚していたのは自分だったって? バカか、あいつ」

明子の話しに相槌を打ちながら聞いていた牧野は、どうしようもねえなと呆れたように息を吐き、明子はそうですねえと同意しつつ、小さく肩を竦めた。

「でも、木村くんの話し聞いて、やっと私が原田さんが理解できない理由が、判ったなあって」
「へえ」

明子に寄りかかったままの牧野は、静かに目を閉じて、そのまま寝てしまいそう雰囲気だった。

「あの子、沼田くんが好きで結婚したいんじゃなくて、とくかく結婚したいから、身近な沼田くんを選んだんだなって。そんなこと考えたら、なんか空しいなあって」
「空しい?」

明子の言葉の意味が判らないというように顔を顰める牧野に、明子は訥々と言葉を続けた。

「妻ってポジションだけが欲しいんだ。養ってもらう立場だけが欲しいんだ。その欲しいものを手に入れたいだけなんだ。だから、相手の気持ちなんてどうでもいいんだって、そう思えちゃって。好きの押し売りじゃなくて、結婚の押し売りしてるんだなあって」

そう思ったら、空しいなあって思っちゃってと、力ない声で笑う明子に、牧野はなにも言わずふうんと鼻を鳴らすだけだった。

好きの押し売りをしているなら、明子にもその感覚はなんとなく判る。
恋愛の始まりなんて、好きの押し売りから始まるようなものだと思う。
売れらた側が買ってくれれば、そこから始まるし、いらないと断れられたら、そこでお終い。
あるいは、そこから更に押しまく人もいるだろうけれど。
でも、そこにあるものが恋や愛ならば、明子にもそれは理解はできる。
けれど、幸恵のなかにあるものは、恋でも愛でもないのだと気づいた。
あえて言うなら、あれは野心だ。
妻という肩書きを手に入れたいという、野心だ。
野望だ。
そう思うと、バスの中でも、駅のホームでも、電車の中でも、明子はため息を止めることができなかった。
生涯の伴侶をそんなふうに選べてしまえる幸恵が、明子には、ますます訳の判らない生命体になっていった。
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