リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
明子の言葉が止まるのを待って、むくりと体を起こした牧野は遠い目で前を見つめて、俺の結婚も似たようなもんだったかもなと、ぼそりと抑揚の無い声で呟いた。

「似たような、もの?」

なにがですと、明子は首を傾げながら牧野を見た。
牧野は、一つ、大きく深呼吸して、息を吐きながら答えた。

「俺も、ただ結婚したくて、相手のことなんてロクに知ろうともしないで、結婚しちまったんだよなあって」
「……、一目ぼれって感じですか?」

前妻のことなど聞きたくないとそう思う反面、前妻のことをいろいろと聞いてみたいという衝動にも駆られ、明子は牧野の反応を窺うように、そう尋ねた。
牧野が後先も考えられなくなるほど、心を奪われた人なのかと、そう思うだけで、明子の胸はざわめき立つようだった。
そんな明子の言葉に、牧野は自嘲気味な笑みを浮かべた首を振った。

「違う。ただ、家族が作りたかった。それだけだ」

乾いた声でそうきっぱりと言う牧野を、明子は見つめることしかできなかった。
ぼんやりと空を見つめるように、顔を上げ前を見据えている牧野の横顔を見つめながら、どういう意味だろうと、その言葉の意味を明子は必死に考えたが、どうしても答えが見つからなかった。
見つからなくても、家族が作りたかったという牧野の言葉が、明子の胸に突き刺さった。
その言葉に真意を尋ねてもいいのだろうかと、牧野を見つめながら考えている明子の隣で、牧野がくすりと笑う気配がした。


-ホントにお前は、待つのが上手いな。


明子を横目で眺め、ふわりと笑った牧野は、明子の肩に手を回し明子を引き寄せた。
囁きにも似た小さな声で告げられたその言葉の柔らかな雰囲気に、尋ねずとも話してくれるつもりらしいと察した明子は、牧野の顔をなにも言わずに見つめ続けた。
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