キスはおとなの呼吸のように【完】
大上先輩は酔いのさめた顔をあげ、ななめうえの真っ暗な空を見あげていった。

「四葉屋の営業では、自分より年したの社長にさんざんな態度をとられ、小バカにされ、正直心の底からくやしかったよ。それでも、おれは営業の人間で、これだけ打ちのめされても、頭をさげ続けなければならない。十年近くもこの仕事をやって理解していたはずなのに情けないな。袴田にえらそうに仕事を教えられるほど、ちゃんとした上司じゃなかったということになるな」

おとなの大上先輩のなかにある、こどもの顔。
男としてのプライドが心のなかで、プロの仕事といつも衝突しているのだろう。
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