夜嵐
我々は『国』を守る『組織』である。
しかし、『国』から支援を受けているわけではない。
クライアントの指示で動く、言い換えれば『犬』のような存在である。
そのため、『国』を守る……そんな善意は微塵もない。
俺は『己の欲』のために働く。
ただし、これは俺個人のみの考えだ。
他の仲間は違うだろう。
目的は同じでも、人それぞれに考え方は異なる。
右に進む者もいれば、左に進む者もいる。
だが、仕事で導く結論は同じだ。
与えられた仕事にどれだけ『仕事』を行えるか、役に立つかだ。

『次は都心駅、次は都心駅。終点でございます』

社内にアナウンスが響いた。
もうじき終点駅に着くようだ。
俺は社会から見れば『不適合者』だ。
『強制』された世界を『守る』ために働くために人々を不幸にする。
別に俺は正義の味方になりたいわけではない。
ただ、俺のような存在を求める者のために働き、結果を出したいだけだ。
それしか、俺は生きられない。
いいや、生きたくない。
なぜなら、俺のような存在は『光』よりも『闇』を好むからだ。




―――都心駅:構内
都心駅に着くと、人で混雑している。
俺は人ごみが嫌いだ。
前に進みたくても、人が邪魔をして遠回りをしなければならないからだ。
『目的に向かって直進する』
それが俺の座右の銘だ。
郊外に出ると、太陽の日差しを浴びた。
相変わらず眩しい。

「んっ……」

突然、スーツの内ポケットに忍ばせた携帯が振動した。
画面には『J』と書かれている。
俺は舌打ちをして、電源を切ろうとした。
この人ごみだ。
それは町に響きわたる雑音でうまく通話できないだろう。
だが、急用かもしれない。
職場まで歩いて10分。
電話を切るべきか……

「もしもし」

俺は携帯の通話ボタンを入れた。

『やあ、Y君。今、どのへんだぃ』

清々しい音声で話す男は、俺が所属する組織『D』の『W』だ。
俺と同じ時期に組織から勧誘され、仲間の一員になった。
つまり、同期だ。
事務所の研修で知り合い、初めは仲間と認識していたが、今は違う。
他の奴が認めても、俺は認めない。
だが、仕事はできる。
そうでなければ、携帯に出ずに、切るところだ。
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