高天原異聞 ~女神の言伝~

 珍しく一人で帰る帰り道。
 美咲はいつも慎也と一緒に帰っている道を進んでしまった。
 大通り以外、女の一人歩きは危ないという慎也の言葉を思い出した時には、すでに引き返すには遅かった。
 静かなその道に、今美咲は一人だった。
 うっかりしていた。
 最近はほとんど慎也と帰っていたから。
 共働きの家庭が多いのか、明かりのついている住宅はほとんどない。
 街灯も間隔が遠すぎて薄暗かった。
 そして何より、足音が、二つしか聞こえない。
 一つは勿論自分のものだ。
 しかし、もう一つは美咲の背後からしか聞こえてこない。

 誰かが、後をついてくる。

 学校での出来事を思い出し、美咲は背筋が震えるのを感じた。
 気のせいかもしれないと心の中で言い聞かせるも、何かが違うような気もした。
 バッグの肩紐に手をかけると、美咲は意を決して走り出した。
 背後の足音がついてこなければ、気のせいで終わっただろう。
 だが、後ろの足音も、速度を上げたのがはっきりとわかった。
 いつもは曲がらない横道の角を曲がり、大通りへと急ぐ。


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