高天原異聞 ~女神の言伝~
呟いたその時、風が、ふわりと美咲を取り巻いた。
懐かしいような、切ないようなあの感覚がしたような気がした。
跳べと、風は促した。
声に従って、片足を囲いのコンクリートの上にかけて上に上がる。
「美咲さん!?」
慎也の声がした。
視線を向けると非常階段の手すりから身を乗り出してこちらを見上げている慎也が見える。
泣きたくなるほど安堵した。
来てくれた。
自分を追って。
それだけのことが、ただ、嬉しかった。
黒い水が追ってくる。
美咲は、囲いに立っていたその身体を、宙に預けた。
落ちる。
直前まで、不思議と恐怖はなかった。