高天原異聞 ~女神の言伝~

 屋上まで間に合わず、三階の非常階段の鉄柵から跳んだ慎也が、落ちていく美咲を抱き寄せた。
 抱きしめられて、俄かに現実に返る。
 
 地面に叩きつけられる――そう思った。

 だが、衝撃は来なかった。
 大気が、二人を重力に逆らって止めた。
 ふわりと、身体が宙に浮いた。
 そのまま優しく二人の身体は真下のプールの縁の傍に下ろされる。

「――」

 あの時と同じだ。
 美咲は咄嗟に思った。
 書庫で足を滑らせたときと、同じ感覚。
 勘違いではなかった。
 あの時感じた懐かしさと愛しさが再び強く、戻ってくる。
 溢れる思いを、美咲は抑えることもできずただ泣いた。



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