Sugarless -君だけがいた時間-
楓が実際にカメラを構えている姿を、私は見たことがない。
そしてそれは、たぶん私以外にも、誰も見たことがない。
いったい、いつ撮っているんだろう、と不思議に思う。
ちょっと頭をかいたり、あくびをしたり、そんな何気ない動作で、楓はいとも簡単に時間を切り取るのかもしれない。
「ねえ、こんど私も撮ってよ」
「やだよ」
「どうして」
「お前って、なんかリアルじゃねーもん」
何よそれ、とつぶやいて、私は朝子の写真に視線を戻す。
そういえば、楓はよく朝子を撮っているな、と思った。
男の子みたいな短い髪。ユニフォームから伸びた、しなやかな四肢。
私がリアルじゃないと言うのなら、朝子だってじゅうぶん嘘臭いと思う。