キミのとなり。
「はぁ~よかったですね、ジンの唄!」


「うん。」


若菜ちゃんが途中で変な事言うから最後まで集中できなかったよ。


「でも!いいなぁ先輩!お隣りさんがジンだなんて。これを利用しない手はないですよ!」


まだ言ってるし……。


「そんな対象じゃないよ!」


「えぇ~もったいない!私狙っちゃおうかな~。」


えっ!


体をくねくねさせて潤んだ瞳でそう言う。


「ダッダダダメダメ!」


 ……って、何焦ってるんだ私。


「そっそれに!あのマンションにジンが住んでる事は絶対内緒だからね!」


「なぁんだ!やっぱり独り占めしたいんじゃないですかぁ~。」


「ちっち違う違う!あいつにそう言われたの!」


「本当ですかぁ~?」


冷やかすような目で私を見る若菜ちゃん。


この子本当に大丈夫かな…。


「それじゃー私こっちなんで!」


「じゃーね!」


若菜ちゃんと別れた後、しばらく一人で街を歩いた。


幸せそうに並んで歩くカップルたち。


街路樹のイルミネーションがきれい……


あぁ…知らない間に季節は冬になってたんだなって気付かされる。


ショーウィンドウに映る自分の姿。


私……寂しそうだな。


マンションに帰って仁の部屋の窓を覗いた。


明かりが消えている。


まだ帰ってないよね……。


真っ暗な部屋の中で涙が溢れた。


一人になると浮かんでくる。


隣にはいつも弘人がいてくれた。


優しい笑顔でいつも横にいてくれた。


もう……弘人は私のものじゃないんだ。


忘れなくちゃいけない。



前を向かなきゃ、


現実を受け入れなきゃ。


わかってる。


そうわかってるのに、なんで涙が出てくるの…?


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