ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~

「――」
 マナはじっと彼を見つめた。
 見たことのない男性で、シイナと同じくらいの年代だということはわかった。視線に気づいたかのように青年は振り返る。
 しかし、そこには何の感情の揺らぎも見えない。
 逞しい、または、男らしい、そんな形容を、青年は持ち合わせてはいなかった。すらりと痩せて、華奢なようにも見える、美しい、だがどこか退廃的な翳りを漂わせる青年だった。
「やあ、シイナ」
 声をかけられたシイナは、無表情に青年を見ている。
「部屋で待つようにと伝えておいたわ。なぜ廊下に?」
「ああ。退屈だったからね。温室を見ていたんだ」
 言いながら、初めて彼はマナに目を向けた。興味深げな眼差しで。
「君が、マナかい?」
「ええ」
「はじめまして。君の〈夫〉になるフジオミだ」
 優しく微笑う長身のフジオミを、マナは驚いて見上げた。
 表情を見せると、途端に先程の退廃的な名残は消え失せ、人懐こい和らかな印象になる。
「まあ、あなたがあたしの〈旦那様〉なの。はじめまして、あなた。マナと呼んでください。お風呂になさいます? それともお食事が先ですか?」
「は?」
 突然の、わけのわからない発言に戸惑うフジオミに、マナの背後でシイナがふきだした。
「――どういう教育をしたんだい、君は」
「マナは今、歴史で『家族』について学んでいるのよ。古い創作書が教科ディスクなの。少し間違った概念を持っていても大目に見てあげて」
「――まあ、いいけれどね」
 肩を竦めるフジオミに構わず、シイナはマナに視線を向けた。
「さあ、マナ。残念だけど、もう勉強の時間よ。行きなさい」
「でも博士。あたし、まだフジオミといたいわ。お話したいの」
「〈学習〉が終わったらいいわ。今日はそれで終わりよ。レストルームで待っているわ。いいわね」
「――はぁい」
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