久遠の花〜 the story of blood~





「――――もうっ、これが」





 限界だと、息遣いが荒い声が聞こえる。

 ――この雰囲気は、なに?

 確か、思考が消えかかって、なにも無い場所に在ったはず。


「なんとか存在は留めたけど、中身が……」


 ――中身?

 なんのことを言っているのかと考えれば、徐々に、感覚が芽生え始めてきた。

 ――思考だけじゃない。

 今、ここには思考以外の存在が出来上がりつつあった。


「体温は……うん、少しは戻ってる」


 途端、声の主が体に触れた。

 そこでようやく、体というモノを実感した。

 重くて、まだ動かすことはできないけど、【これ】に思考以外の存在が付属したんだというのは理解した。


「美咲ちゃん、聞こえる?」


 心配そうな声が、【これ】の様子を窺う。


「美咲ちゃん? 美咲ちゃん?――!」


 ようやく、【これ】の意思が体に伝わった。

 目蓋を開き、さっきから呼びかける声の主に視線を向ける。


「よ、よかったぁ~。どこも痛くない? 大丈夫?」


 視界に映ったのは女性。

 淡い緑の瞳からは、涙が溢れ出ていた。


「美咲ちゃん――?」


 さっきから言ってるのは、多分【これ】のことなんだろう。


「っ! やっぱり中身が」


 それが【これ】の個を表しているのは理解できるけど――実感がわかない。





「貴方は――誰なの?」





 誰? と聞かれても。






「これに――記憶はない」






 そう答えることしか、できなかった。
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