久遠の花〜 the story of blood~
「んじゃとりあえず、上に行こうか」
ここには、敵らしい者はいない。
音はすれど、誰かがいるよう様子は無かった。
階段を上がりおえると、一つのドアが見えた。ノブに手をかけ、ゆっくり回し開ければ――目の前に、十字に建てられた物が見えた。
夕暮れの草原。
大小様々な十字の木。
見るからに、ここは埋葬場所だろう。先程の部屋同様、誰の気配も感じない……。
本当、この空間はなんなんだ。
風や音も本物としか思えない。だというのに、誰もいないなんてこと――。
「ちょっ、何してんの!?」
突然、使い魔は一心不乱に地面を掘り始めた。少年が止めるのも聞かず、あっと言う間に人ひとり分の土を掘り返したと思えば、
「っ!?――――あ、るじ」
小さく、そんな言葉が耳に入った。
まさか……これが美咲?
出てきたのは、体を折り曲げたままの遺体。顔は潰れ、所々肉を剥ぎ取られている。
「おい……まさか本当にっ」
「【今の】ではないが……主だ」
「? どういうことだ」
「この主は……四度目の肉体だ」
「随分酷い状態だけど、君が殺したの?」
「……殺された。何かの儀式に使われたらしい」
「ってことは――ここは君の記憶か」
その言葉に、オレと使い魔は首を傾げた。
「さっきの場所は叶夜くんでしょ? おそらく、この塔は上る者にとって辛い記憶――嫌な記憶を再生してるんじゃないかな?」
「そんなことをして、意味があるのか?」
「そいつが何をしたいかなんてわからないけど、普通はそーいったのを見せられれば贖罪の念にかられるし、上りきる前に自殺、なんてこともあるんじゃない?
ま、人の闇を再生するならすればいいさ。次は私のかな? 楽しみだねぇ~」
微笑みながら、少年は土を被せ始めた。