久遠の花〜 the story of blood~

「始末をつけろ」

「っ!?…………始末」

「魂を戻せる保障は無い。ならばせめて、これ以上利用される前に逝かせてやるべきだろう」


「――だからっ、言ったんだ」


 よろめきながら、使い魔がオレの前に立つ。


「どのみち殺すことになるのに……何故やらなかった!? 今更怯えでもしたか!」


 怯えなどない。ただ……ただ純粋に、死んでほしくなかった。生きてほしいと、そう思っただけだ。


「落ち着け。開花したものはしょうがない。――長は、寿命が尽きたのか?」


 見れば、体はまだ残っている。あいつは自殺なんだから、体が消えるはずなのに……。


「自分で、首を切り裂きました」

「ならば、肉体が既に終わっていた、というところか。――体に変化は無いか?」

「特には。傷も、もう塞がっていますし」

「それは妙だな。長は肉体が使えなくなる前に別の体に移るもの。お前という体があるのに……何故それをせずに死を選んだのか」


 言われればそうだ。あいつは花を欲しがっていたのに、それが手に入った途端死を選ぶというのはおかしい。

 自分の胸に手を当てる。――鼓動は正常。今のところ、体に異常は起きていない。


「当然だよ。ここではもう、〝体は不要〟なんだから」


 背後から声がする。振り向けば、少年は腹を押さえながら立っていた。


「この空間は変わったんだ。今までいた物質界から創造界、ブリアーと呼ばれる領域にね。――ったく、彼女の力は強いや。まだうずいてる」


 苦笑いを浮かべる少年に、使い魔は肩をかす。


「ありがと。まぁ簡単に言えば、ここは〝意思の世界〟ってとこかな。多分、君たちの長は〝自分を作り変える〟んだよ」


 少年が話すことは、どうやら蓮華さんも知らないようだ。終始、少年の話に関心を示している。


「よく分からないが……どうにかして、日向さんを救えないか?」


 長のことはどうでもいい。今オレが考えるのは、美咲を救う方法だけだ。


「お前まだそんなことっ!」

「こら、そう熱くなるなって。私だって救いたいけど、それは彼女次第ってことしか言えないね。ってか、今は自分の身を心配するべきじゃないの?」


 にこやかに指を向けた方を見れば、地面に広がっていた血が、一つに集まり始めていた。


「へぇ~。ただの意識だけで来るかと思ったけど、血を使うんだ」


 咄嗟に、オレと使い魔は鼻を覆った。異臭がするだけじゃない。あれには、何か嫌なものを感じる……。


「――呪いの元か」


 呟くと、蓮華さんは懐から石を取り出し、それを四方に投げる。
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