久遠の花〜 the story of blood~
〝――――〟
また、ノブを回してって言ってる。なかなか手を伸ばせない私に、その人は、一緒にノブに手を置いてくれた。ガチャリ、ゆっくりノブが回される。ドアを開ければ、奥にはまた、白い二つのドア。中は真っ暗だけど、怖いって感覚はない。進んでいくにつれ、なぜか、それまで離せなかった手を、私は自然と離していた。すると、ドアの奥から、目覚しの音が聞こえた。それを聞いて、これは夢なんだって安心した。
私は左のドアの前に立ち、男の人は右のドアの前に。それぞれが位置につくと、お互い示し合わせたように、ノブに手を伸ばす。
「――ボクは大丈夫」
明るい声。その声に、私は笑顔でドアを開けた。
◇◆◇◆◇
規則正しく鳴る音。目覚しを消すと、私は、どこか虚しさを感じた。
なにか聞こえた気がするのに……それが思い出せない。目を開けた時には、部屋の天井が見えるだけだった。
「――ニャ~」
「――本当、なんなんだろうねぇ?」
ベッドで横になりながら、飼い猫のクロとじゃれる。
幼い頃みたいに頻繁に入院はしなくていいけど、ここ最近は、ずっと部屋から出ていない。
夢は、その人の願望や、その日に得た知識を記憶する為のものって聞いたけど、今日見た夢は、どちらにも当てはまらない気がするんだよね。
「ニャ~オ?」
「……心配してくれるの?」
クロは、言ってることが本当にわかってるみたいに反応をしてくれる。大丈夫だよって言えば、頬に顔を擦り寄せ、隣で丸くなった。
まだ起きれそうもないし、もう一眠りしよう。
「クロ――おやすみ」
頭を撫でてから、私は目蓋を閉じる。
気になる夢だけど、嫌な気はしない。でもできるなら、今度はきちんと、夢の内容を覚えておきたいな。
あれは――ただの夢。
でもその時、私の左手は、しっかりとなにかを握っていた。