真っ赤な紅を…。
かのは、小さく呟きました。
「涙って、こんな時に零れるんですね…」
青年は、そんなかのの顔を覗き込んですまなそうに言いました。
「お前は、私がいなくなると、また独りになってしまうんだな」
そして、かのをまっすぐに見て
「一緒に帰ろう!」
と言ってくれたのです。
「鬼と一緒に帰っては、あなたがひどい目にあうから…」
かのは、あとずさりしましたが、
「髪の毛をとき、赤い紅をさせば、誰にも負けないほどきれいになる、小さな角も牙も隠れてしまう、何より、お前は優しい」
青年はそう言って、かのをつれて、いいなづけのいる村に帰って行くことを決めてしまいました。

青年は優しく微笑み、はじめて髪をとき、その唇に真っ赤な紅をさしたかのは、この世の幸せがすべてその身に降り注いだかのような美しい笑顔を浮かべていたそうです。
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