密会は婚約指輪を外したあとで
居酒屋の代金は拓馬が支払ってくれて。
その後は彼の提案で私の部屋で飲み直すことになり、地下鉄を使いアパートへ再び戻った。
拓馬に外された婚約指輪はそのままで、私の指を飾ることはなく、バッグの内ポケットにしまってある。
アパートの鍵を開け、玄関でパンプスを脱いだとき。
視界が一瞬暗くなり、ふらついた私は隣にいた拓馬の肩に寄りかかる形になった。
お酒を飲んだあと、すぐに長い距離を歩いたため、酔いが回ったらしい。
「……ごめんなさいっ、わざとじゃないです」
こういう、わざとらしさの際立つベタな展開は、拓馬は何となく嫌いそう。
そっと彼の表情をうかがうと、案の定、彼は冷たい眼差しで私を見下ろしていた。
「だよな。兄貴にも同じ手を使って誘ってるのかと思った」
そう言いながらも、しがみついてきた私の手を振り払うことはせず、倒れないようにと背中の辺りを支えてくれる。
「誘うだなんて……。一馬さんとはまだ、何もないのに」
誤解されるのは嫌で、私はついうっかり、本当のことを口にしてしまう。