密会は婚約指輪を外したあとで

ソファから立ち上がりこちらへ近づいてきた拓馬は、からかいの眼差しで私の髪を一房すくった。

またさっきみたいに触れて欲しい、とはとても言えず。私は手を洗い、酒のつまみをお皿に並べる作業に集中するふりをした。


「意外と、髪は綺麗なんだな」


意外とって失礼な。
お願いだから、近くからまじまじと見ないでください。


「あ、そうだ。拓馬はローストビーフ好き?」


冷蔵庫の中に作り置きがあるのを思い出し、話をそらす。


「──好きだよ」


声優並みに色気のある低い声が、ぞわぞわと私の肌を舐めるように走る。


「あの……普通に返事してもらえませんか」


平常心を失っている私のことなどお構い無しに、拓馬は意地悪な笑いを浮かべている。


「もしかして、何か期待してるとか?」


耳元にくちびるを寄せた状態で、フッと息を吹きかけてきた。

私はゾクッとして体を震わせる。


「“続き”って、話の続きのことだけど?」

「………!」


カッと赤くなった頬を横目に、拓馬は満足げに微笑む。
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