密会は婚約指輪を外したあとで
一馬さんとキスなんて、想像もつかない。
向こうも、そんな素振りはないし。
本当に、私を女として見てくれているかも怪しい。
「……さっき、さらっと“色気が足りない”とか言ってたよね。傷つくんですけど?」
ソファのひじ掛けにもたれてビールを飲んでいる拓馬を、私はカウンターキッチン越しに軽く睨んだ。
すると彼の湿った赤いくちびるが弧を描き、笑みの形を作る。
「兄貴から見たら、ってことだよ。奈雪は奈雪で色気あるから、もっと自信持てば」
そんな色気だだ漏れの表情で言われたら、余計に自信をなくすというもの。
それにしても、どうしてそんなに余裕でいられるのだろう。
今度こそ完全な二人きりという状況なのに。
そわそわする私とは対照的に、拓馬は二人掛けのソファの上でくつろぎ、自分の家にいるとき並みの落ち着きようだ。
私といえば、居酒屋で帰り際に囁かれた「続きはまた後で」という言葉が気になって仕方ない。
意味もなくキッチンへ避難したのも、期待と不安で落ち着かないから。