幼なじみじゃイヤなんだ。
* * *


放課後になった。



『さようなら』の挨拶と共に、クラスメイトは、家に、部活に、寄り道にと向かい、あっという間に教室は私だけになる。



上坂くんは『ごめんね。すぐ戻るから』と言って部活に行った。



流瑠も笑顔で『じゃぁな』と部室へと走って行った。







私は楽譜とフルートを取り出す──



誰もいない教室。





さっきまでの喧騒が嘘だったかの様に、静かになったこの空間を、音で包み込む瞬間が私は大好き。






深く深呼吸をする。


背筋を伸ばし、顔を起こす。


お腹から息を押し上げて、コントロールしながら、これに吹き込む。





“繊細で澄んだ美しい音色”




頭の中に描いた音のイメージを、この教室いっぱいに響かせる様に…。




私の心が温かい時は、イメージ通りの音を出せる。


中1の時、このフルートに初めて出会った。





流瑠には勉強も運動神経も勝てない私だったけれど、初めて私のフルートを聞いた流瑠は、


「すごいな桜、綺麗な音だな」と目を丸くした後、思いっきり笑顔になった。




その顔を今でも覚えている。



そして今でも、フルートを吹くと流瑠は笑顔になってくれる。


私の音色を褒めてくれる。

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