記憶混濁*甘い痛み*2

もしもの時は、自分の命より子供を救ってくれと、そう言われていたのに、守れなかったオレの事を。


「…ゴメンな…」


呟いた言葉は、我が子と友梨、どちらに向けたものなのか……


いや、どちらかでなく……2人に向けた謝罪の言葉なのかもしれない。


2人の命を握って、1人の命を手折った者からの、謝罪の言葉。


「ゴメンな……一度も、抱かせてやることが出来なくて」


娘に、妻に、謝罪をし、思い返す程に辛くなり、和音の瞳からは涙が溢れる。




この先、友梨が記憶を取り戻す事がなければ、あの子は友梨が天に召される時まで、母親に祈ってもらえないのだ。


それは娘だけでなく、友梨本人においても、不幸な事のように思えた。


それでも涙を押さえながら、なんとか息を整える。


誰かに逢う前に、この場所を去りたかった。


けれど、そんな風に思っていた和音の耳に


ぎぃ……と、教会の扉が開く音が




響いた------
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