記憶混濁*甘い痛み*2

静かに、音をたてずに。


空也が友梨の病室に戻ると、意識のない友梨の手を握りしめて、看護を頼んだ筈の和音までベッドに身体を預けて眠ってしまっていた。


「何やってんだよ、ほんと、役にたたねぇな」


空也は苦笑いするものの、ずっと愛しい妻の為に祈り続けていた和音が気の毒になり、起こすのをやめて荷物を床に置き、ソファーに腰を下ろした。


友梨は、まるで和音の頭を胸に抱くかのようにして、静かな寝息をたてていた。


2人共、見ている方が悲しくなる位、幸せそうな顔をして眠っていた。




オマエらは……




空也は溜息をつきながら、仕事道具であるカメラを荷物の中から取り出した。


友梨の為だけに呼ばれたのではなく、もともと明日には来院の予定があったのだ。


ホスピスで開催するクリスマスの様子を、写真に収めて欲しいとの依頼を院長から受けて。


2人を起こさないように、愛用のleicaではなく試し撮りで使うデジタルカメラで、寄り添い合う姿を切り取るようにフレームの中へ。




今、オマエらは。

夢の中で幸せか?




微笑んでいる空也の瞳から、自然と涙が溢れた。


なぁ  オマエらは、離れられないんだろ?
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