記憶混濁*甘い痛み*2

「オレだって同性には、特にオマエには興味ねぇよ!けど娘が世話になってる病院で暴力はさすがにまずいだろ?」


友梨を起こさないように気をつけながらも、興奮してついついトーンが跳ね上がる空也。


ホスピスの喫煙室は、守衛室の真向かいにしかない。

空也は外に吸いに行くと言っていたのだが、目をつけられた守衛についてこられるのも鬱陶しかったらしい。


「いっそお止めになったら如何ですか?僕なんて、すぐ止められましたけどね」


フッと、厭味がましい顔で、芳情院。


「オマエも条野も友梨の事になると異常だよ。オレは友梨に泣かれようが、煙草は一生止められねぇな」


空也はそう言ってから、一度室内に入り友梨の寝顔を覗き込む。


そして、軽く頷くと。


「先刻、今の記憶に落ち着いてるし、もう暫くは安定してるんじゃねぇ?友梨ちゃんは。一本だけ付き合えよ、な?」


と、言って、ニヤリと笑い、芳情院に顎で廊下を示して見せた。


すると芳情院は、これ以上ない位の長い溜息を吐き出すと。


「そうですね、行きましょうか」


と、言って、腰を上げた。


昔から、あの笑い方をする時の空也には逆らえない。



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