記憶混濁*甘い痛み*2
腰に回された右腕と、頬に添えられた左手と。
触れられた箇所から和音の想いが伝わってくる様な気がして、友梨は自分からも腕を絡ませる。
自分は。
どうして、この『オトコ』でないとダメなのか。
友梨は和音の左腕と右肩にすがりつきながら、甘いキスに酔いしれる。
あの夜の。
恐怖。
嫌悪。
憎悪。
失望。
絶望。
空虚。
自分の、心と、身体の、痛みより。
和音への、想いを、汚す、裏切りに。
全てを。
自分という存在を作る全てを。
消して、しまわならなければイケナイ。
そう、友梨は思った。
私を汚した、お兄様よりも。
私を救えなかった和音先輩よりも。
私と言う存在が、この世界にある事が、問題なのだ。
私がいるから。
私のせいで。
お兄様が。
和音先輩が。
傷付いている。
罪は。
私の中にある。
だから。
友梨は。
和音を、忘れたふりをした。
芳情院を、愛している、ふりをした。
けれど。
どんなに、祈っても、祈っても。