天使のような笑顔で
先生が…もっと嫌な奴なら良かった。


そしたら、遠慮なく恨んだりできるし。

彼女に、『あいつはやめとけよ』って言う事もできるのに。


彼女が好きになるのも、分かる気がするんだ。


男の俺から見たって、先生は…カッコ良くて優しい大人の男だ。


「先生は、彼女はいるんですか?」


つい、そう訊いてしまった。

だってもし彼女がいるのなら、桜庭さんの想いは叶わないのだから。


「いきなりだな、お前」


そう言って、先生は屈託なく笑った。


その笑顔は、先生の後ろで元気よく咲いているひまわりによく似合っていて。

思わず、見とれてしまった。


「彼女じゃないけど、好きな奴ならいるよ」


片想いだけど。

先生は、そう続けた。


「それって…ここの生徒とか?」


不安になって、そう尋ねてみた。

だって、その好きな人が桜庭さんじゃないとは限らない。


「アホ。俺の事幾つだと思ってんだ?中坊に手ぇ出すほど困ってねぇぞ?」


そう言ってからじょうろを拾い上げ、先生はこっちに向かって歩いて来た。


「心配しなくても、あっちの安以ちゃんは盗らねぇよ」


「なっ!?誰もそんな事っっ」


本心を言い当てられ、俺はかなり焦っていた。

うまくごまかしたいのに、何て言っていいのかが分からない。


「彼女とうまくいったら、保健室の鍵貸してやるから。あそこならベッドがあるからちょうどいいぞ」


笑いながらそう言って、先生は俺の横を通り過ぎて行く。

振り返ってその白い後ろ姿を見送りながら、ひとまず俺はほっと胸をなでおろしていた。


先生が彼女の事を想ってなくて、とりあえず良かった。

まぁ冷静に考えれば、そんなわけないんだけど。


ただ、あの笑顔は誰でも魅了してしまうから。

もしかしたら…って思ってしまったんだ。

< 43 / 123 >

この作品をシェア

pagetop