飼い犬に手を噛まれまして
「だ、ダメだよ……諦めちゃ……
事情はよく知らないけど、みはるさんから少しだけ聞いたよ。家出してるんだってね?」
腕に力が入る。痛いくらいのキツい抱き締め方。抱き締めているというより、何でもいいからすがりついていたいようにも感じる。
ワンコの背中にそっと手を回して優しく撫でる。
「家に帰って、ご両親納得させればみはるさんだって……ワンコのこと嫌いになったわけじゃないみたいだし。とりあえず、引き止めてみなよ……」
返事はない。ただ、震えるだけのワンコ。
「…………シンガポールには、深陽の親が決めたフィアンセがいるらしいんです。ずっと、そっちに赴任していて……深陽がシンガポールに行くことを決めたってことは、結婚を真剣に考えてるって事ですよ……
その男は、いつでも深陽を受け入れられるように部屋も車も仕事も用意して待ってる。深陽が何不自由なく生活できるように…………こんなとこでバイトしかできない俺とは、全然違うんです」