飼い犬に手を噛まれまして

「明日、シンガポールに行くって言ってたよ……今からならまだ間に合う」


 ワンコの腕から抜け出そうともがく。だけど、その両腕はがっちりと私を捕まえていた。

 洋食屋さんの香りが染み込んだシャツ。換気扇からはゴウゴウと生温かい空気が出てきている。


 ワンコは私の肩に額をつけると小さく肩を震わせた。



 泣いてる…………




「ねえ、深陽さんの実家とか連絡先知らないの? それか、明日空港に行けば……」


「いいんです」


「ワンコ……諦めるの?」



 ワンコは額をつけたまま、二回頷いた。




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