飼い犬に手を噛まれまして

 やっぱり、全然悪びれた様子のない先輩。確信犯は、余裕たっぷりに笑ってる。



「先輩、公私混同しまくってますよ」


「だよな、俺も今そう思ってたとこ」



 よく見ると、先輩は昨日と同じ柄のシャツを着ている。センスのいい、グレーのネクタイも同じままだ。


「先輩、ひょっとしたら徹夜ですか?」


「ああ、帰ってないけど仮眠はとったよ」


「えぇっ! そんなに忙しいんですか?」


 先輩は、ネクタイを緩めながら「ん? いつも通りだよ」と首を傾げた。

 家に帰らないで仕事するなんて有り得ない私には、カルチャーショックみたいなものを感じた。


「今日はクライアントに会う予定もないし、デスクワークだけだから余裕だよ。あ……」


 先輩は、何か思いついたみたいに唇を引き上げた。

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