飼い犬に手を噛まれまして

─────「茅野、お疲れ! 私、彼とチャペル見に行くから先帰るね!」


「はい、お疲れ様です!」



 萌子先輩は聞いてもいない理由を述べてから、いそいそと庶務室を後にした。

 
 もうすぐ年度末。庶務課も新年度に向けて、忙しい時期になってきた。

 と、意気込んでみたものの。先輩みたいに帰れないほどの残業なんてないし、残業はできるだけするな、しても残業代は出さないぞ、というのが上からの方針なので、パソコンの電源を落とした。


 私も、帰ろ。ワンコが待っているんだった。


 備品庫に鍵をかけていると、ノックもなしに庶務室のドアが開いた。


「ちょっといい?」


「和香……」


 あれ以来、私と目も合わせてくれない和香。プリーツスカートのグレーのスーツ姿で、高いヒールの靴を鳴らして部屋に入ってきた。


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