飼い犬に手を噛まれまして
和香に無視されていることは、少なからず私にはショックなことだった。今も冷め切ったような顔して、私を睨み付けてくる和香に傷ついている。
ごめんね、とメールで謝ったけど私は本当に故意に悪いことをしたわけじゃない。
それは、あまりに都合のよすぎる考え方なのかもしれないけど、せっかく手に入れた幸せを失いたくないのが正直な気持ちだ。
「もう仕事終わったの?」
「う、うん……萌子先輩帰っちゃったし」
「ふーん、羨ましい……」
和香は冷たくそういうと、電源の落ちたパソコンを鼻で笑う。
「和香……何言いに来たの? 私、もう帰りたいんだけど」
負けるもんかと、手のひらをギュッと握った。何を言われても、私は先輩が好きだし別れたくない。
同期入社して仲良くしてきた和香だけど、先輩だけは譲れない。