飼い犬に手を噛まれまして

 ワンコの真っ直ぐな瞳は、私を捕らえたままだ。


「人の温もりがすごく恋しくなっちゃったんです。紅巴さんのベッドで一緒に寝てもいいですか?」



 こんな時、以前の私だったら絶対断ってる。でも、今の私は、いいよ、と小さく頷いた。


────時間をかけてお風呂に浸かって、一日の疲れを癒やす。先輩のことも、和香のことも、何度も何度も頭を通過していくけど、大した答えが出るわけじゃないし、自分から先輩に電話してみる勇気は出なかった。


 テレビを見ながら寛いでいるワンコに、「彼氏さん連絡しなくていいんですか?」と訊ねられ「会社で毎日会ってるから」と答えた。


 電気を消すと、ワンコはベッドに潜り込んでくる。


「紅巴さん、俺と同じシャンプーの香りする」と言いながら、大きく深呼吸して瞳を閉じた。



「俺と一緒って、ワンコが私のシャンプー使ってるんでしょ?」

「あ、そうでしたね」



 ワンコの両腕が背中に回る。びくりと身構えるけど、それ以上何かが進展するわけじゃない。




 ワンコは寂しいんだ…………


 きっと、私が想像できないくらいに傷ついてる。

 ごめんね、ワンコ。


「また、いい恋できるといいね……」


「はい……おやすみなさい」


「おやすみ」



 それを利用している私。

 先輩を信じたいのに、理由つけて目の前の温もりに逃げた。

 私だって……とムキになってみたけど、虚しいだけだ。

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