飼い犬に手を噛まれまして


 このコンテストの厳しさは嫌ってほど先輩から聞かされていた。参加者の名前が呼び上げられる。

 その中に、シンガポール支社の深陽さんの名前もあった。

 やっぱり参加してたんだね。だけどその姿はない。




 ワンコからは、一度だけ連絡がきた。家に帰らず、シンガポールで深陽さんと暮らすことにしたって聞いている。SKM副社長職は私と一緒にクビになってしまったし、もしかするとイーストエージェンシーの社員になってしまうのかもしれない。


 でも、郡司先輩が「ライバル大歓迎だよ。自分が成長するためには必要なモノだからな。それが羽根深陽だろうと、副社長だろうと俺はかまわないけどね」と言ってくれた。



 手が震えてる。

 私は、ワンコの自立と恋愛を応援したかった。

 SKMに損害を与えようとか、そういうことは全然考えてなかった。




「茅野、大丈夫よ。郡司くんが授賞できなかったら、彼の力不足なだけ。茅野が副社長をイーストエージェンシーに引き渡したからと考える人はもういないわ。皆、それくらい理解できてる」


「萌子先輩……」

「紅巴、顔あげて。未来の旦那様の晴れの舞台、見てあげなきゃ」

「うん、朋菜」



 参加者が壇上にあがる。


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