飼い犬に手を噛まれまして

『まだ、ねぇ……』


 ふーん、と星梛が呆れたような声を出す。それが私を苦しめる。


「とにかく、明日の夕方迎えに行くから。それまで、そこにいて」


 二度目の沈黙……


「星梛」


『一人は寂しいな……』


「星梛……やめてよ」


『寂しいよ、みはる』


 
 電話口の声が余計に私の罪悪感を突いてくる。



「もう切るね。また、明日」


 星梛の返事を待たずに、赤いボタンを押す。ぷつりと途切れる回線。自分の感情もこれくらい簡単にコントロールできればいいのに……



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