飼い犬に手を噛まれまして
────親孝行は、私にとって、とても大切なことだ。うちの両親は、いつでも私に『最適』を与えてくれる。
優しい母親に、できる父親、何でも経験させてくれたし、色んな大切なことを教えてくれた。
幸せな家庭で、何一つ過不足なく私は育てられた。親孝行しないわけにはいかない。それが唯一、両親から与えられた枷だ。
「星梛?」
『もしもし、みはる? もう仕事終わったの? はやかったねー』
「うん、今日は定時あがりだったから……もう部屋に帰ってきた」
『そっち帰っちゃダメなの?』
「だめ……今からお父さんが来るの」
電話の向こうが沈黙した。私も負けじと沈黙する。
『だから、か?』
「うん、しょうがないでしょ」
『そっち行きたいな。一度、みはるのお父さんと話てみたい』
「だめ! ……あの、その……まだ、だめって意味だけど」