飼い犬に手を噛まれまして
「支社長お電話です。お母様から」
「母から? まわして」
短い呼び出し音の後、すぐに受話器を上げた。
『みはる、元気なの?』
「お母さん! 珍しいわね、仕事中に電話してくるなんて」
母から電話がくるのは、決まって休日の朝だった。今みたいに、みはる、元気なの? て訊ねてくる。
この前、母からの電話を受けたのは星梛の腕の中だった。
誰? と声を出さずに首を傾げた星梛に、お母さん、と口を動かして伝えた。
星梛は、ふざけて何回も首筋に噛みつくようなキスをしてきたから、頭を叩いて星梛の腕から逃れた。
それでも星梛は諦めないで、私のウエストに腕を回してしがみついてきたから、私はそのまま母と会話を続けた。
その星梛は、今はいない。