飼い犬に手を噛まれまして
「飼い主さんでしたか! それじゃ、これお返しいたします」
その男の人は、爽やかなまばゆいばかりの笑顔を振りまきながら、何気にえげつない状況でえげつない発言をする。
ワンコを、これ、呼ばわりしたよ……この人。
「ワンコ大丈夫?」
ワンコは可愛い目をうるうると潤ませて、「紅巴さーん」と抱きついてきた。
可哀想に……
「痛いのに、なんかぞくぞくしちゃいましたよ。俺……今度みはるに女王様してもらおうかな」
「えっ?」
そっちの意味で泣きそうなわけ?
こっちは心配して駆けつけたのに!
だけど「紅巴さん、来てくれて嬉しかったです」と強く抱きついてくるワンコを前にすると、いつも「はいはい、泣かないの」なんて大人ぶってしまう自分がいる。
それにしても……
「あ、社長。おかえりなさい」
本当にこんな場所でコーヒーを飲もうとしていたのか、町田さんは人数分のカップをトレイにのせてやってきた。
「社長?」
まさか、この若くて笑顔が素敵なスーツ男が社長?
「聖夜さんは、俺とみはると同じ大学なんです。みはるとタメで、俺の先輩ですよ、紅巴さん。
今日、みはるは外せない会議があるから久々に聖夜さんに会いに来たらSM倶楽部の社長になってて、それで捕まっちゃいまして」