飼い犬に手を噛まれまして

「うらやましいです……」


「そうでしょ? なに、大丈夫よ。茅野も可愛い顔してるんだから、頑張りなさい」


「はい」



 萌子先輩は、必要以上に左手をヒラヒラと振りながら社内を歩く。


「あ、私プロジェクター設置いってきます!」


「いってらっしゃい、茅野ちゃん!」


 あはは、なんか調子狂うけど萌子先輩が幸せそうで本当によかった。話を聞いてると、彼は萌子先輩より年上で、包み込むような優しい人らしい。


 エレベーターに乗り込み、報告会を開催する大会議室を目指す。


 まだ、時間に余裕がある。資料などの必要なものは午前中のうちに揃えてあるから、安心だ。



 結婚か……………



 私、できるのかなぁ?



 同級生は、三十路前に駆け込むように結婚していった。まだ独身の子もいるけど、いつの間にか少数派になってる。

 年賀状も年々ファミリー写真入りのものが増えていって、微笑ましいのに、虚しさを感じたりもする。

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