飼い犬に手を噛まれまして

 せめて、胸はって、私は恋愛してます! と言えたなら……



「茅野……」


 まだ、誰もいないと思ってノックもせずに開いたドア。


「郡司先輩……あ、おかえりなさい」


 久々に見る長身。お洒落なスーツに長い足。薄茶色の瞳に、柔らかな髪……


「ただいま、準備完璧だな。ありがとう」


 先輩は一瞬フワリと優しく微笑み、そしてすぐに手元の書類に視線を落とした。



 やっぱり、郡司先輩は破滅的だ。私の心を全て壊してしまうくらいの存在だ。

 ただ会えただけで、どうしてこんなに嬉しいんだろう?





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