飼い犬に手を噛まれまして
先輩の綺麗な横顔を視界におさめながら、プロジェクターの電源を入れた。
機械の音と、先輩がペンを走らせる音だけが広い会議室に響く。
「茅野」
「はい、どうしました? 足りないものがありましたか?」
郡司先輩が、ふっと笑った。
「足りないものはないよ。俺さ、公私混同はしないって決めていたんだ」
「公私混同?」
先輩は、書類を机に置くとゆっくりと立ち上がりプロジェクターの前までやってきた。
「だけど……ちょっとくらい、いいよな?」
訳もわからず腕を引かれて、目の前が真っ暗になる。
自分が郡司先輩に抱きしめられてると気がつくまで時間がかかった。
「会いたかった……」
「先輩……っ?」
「会いたかったよ。
俺、シカゴで茅野に会いとか考えてた」
ワンコとは全然違う腕の中。先輩の吐息が耳にかかる。
ああ……もうダメだ。
この気持ちにブレーキなんてかけられない。
「わ、私も会いたかったです……」