飼い犬に手を噛まれまして


 今、泣きたい。

 なにこれ?

 どうして、私が郡司先輩に抱きしめられてるの?

 先輩の胸元から視線を上にした。すぐ目の前に、整った綺麗な男の人の顔がある。そして、ふと目を細めた。


「そんな顔するなよ。キスしたくなるだろ」


 ど、どんな顔したらキスしてくれますか?


 先輩に肩を掴まれて、キスされると思って目を瞑ると、体をくるんと反転させられて今度は後ろから抱きしめられた。

 背中にあたる先輩の温もり。耳元からは優しい声。



「報告会が無事に終われば、俺も今日は定時であがる。一緒に帰らないか?」


「一緒にですか……?」


「車で出勤してる。明日は休みだし、俺の部屋に来いよ」


「せ、先輩の部屋ぁ?」


 そのセクシーすぎる声に、私の体の奥深くから揺すられるようだ。目眩がしてきた。

 おかしいです! いきなり部屋に誘うなんて……

 でも、行きたい。

 これ以上、郡司先輩に甘く囁き続けられたら私おかしくなっちゃう。


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