元男装少女-アイドルになった双子の妹の物語-
木村が出て行ったあと、楽屋に沈黙が落ちた。
時間だけが過ぎていく。
「俺、この後仕事あるから...」
南は時計を見て、慌てたように鞄を引っ掴む。
「南!」
陽が声をあげた。「ごめん!また連絡する!」南は本当に申し訳なさそうな表情をしたあと、楽屋を後にした。
「...俺も、仕事がある。」
悪いな。と言い残し柚希も出て行った。「楓も、仕事あるんじゃないの?」ことりが不安そうな表情で問いかけた。
「...そうだった。ごめん、僕も行くよ。」
「あ、楓。」ばたん、と扉が閉まった。楽屋に残された陽と郁、そしてことりは戸惑う。
「...2人は、仕事はないのか?」
「あるよ。」「ある。」
「行かないのか?」
「郁こそ、仕事あるんだろ?」
質問を質問で返した陽を見て、郁は「ああ、いかなきゃな。」と呟く。
「わたし、」
ことりの言葉に2人は彼女に視線を向けた。
「...スカイ、なくなっちゃうの、やだ。」
そう思ったのはことりだけじゃないはずだ。けど、皆はあえてその言葉を口にしなかった。その気持ちを認めてしまえば、きっと、深く考えてしまい仕事に支障がでる。
彼等はプロで、仕事をしている。弱音を吐いている暇はなかった。
「ことり、仕事に遅れるよ。」
陽はできるだけ優しく声をかけたが、ことりは首を左右に振った。
「やだ、行きたくない。」
「ことり。」「やだ。」
ことりがスカイに入ってから、彼女はどんなに忙しくても苦しくても駄々をこねる事はなかった。なのに、今、珍しく反抗を見せている。