先生の言うことがきけないの?

求めて

実花 side
――――――――――


谷内のかっこいい黒い車の中で、あたし達は笑顔だった。


さっきまでのことが嘘みたいに、穏やかな雰囲気だった。




こんな言葉が車の中に聞こえるまでは。


「都筑の彼氏との約束って、田中と遊ぶことだったのかぁ?」


「―――ッ」


自分でも、笑顔がひきつったのがわかった。


ミラーを見ると、しっかり前を向いて運転しているその人の左目が映る。


軽い気持ちでこの言葉を口にしたんだってわかる。


でもあたしの心にはずっしりとのしかかってきた。


「そ…うだよ?悠莉は、あたしの彼氏みたいなもんだし!」


「ちょ、かってに男にすんなや」


「だってぇー」


悠莉が微妙な顔してる。


“言わなくていいの?”って顔してる。


だから、うなずいておいた。


ほんとは、辛いけど。


ほんとは、悲しいけど。


うなずくしか、なかった。


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